深田木工所のモクギョができるまで

コロナ禍で国内ターゲットのものづくり支援にも積極的に携わっていた2021年、伝統的工芸品産業振興協会(以下、伝産協会)の主催する「ものづくりフロンティア」にプロデューサーとして参加する機会を得ました。以前はフォーラム事業という名称で運営されていたものですが、伝統工芸品産業に従事する生産者がより消費者のニーズに寄り添った商品開発を行えるようにと、リニューアルされたプログラムです。

この事業では新たに商品開発を希望する日本各地の伝統工芸の生産者がエントリーし、プロデューサーとマッチングすると商品開発の企画をまず提出し、伝産協会に承認されると商品開発が始まります。そこから大体7〜8ヶ月の期間を経て、市場流通可能な状態まで持っていく開発期間に時限のある取り組みとなっています。

2021年度は名古屋、尾張仏具の産地で「木魚」製造を専門にしている深田木工所と、福岡、小石原焼の窯元である鬼丸雪山窯元と商品開発を進めました。今回はまず深田木工所と取り組んだ「モクギョ」の開発の舞台裏をご紹介していきたいと思います。

深田木工所に興味を持ったわけ

様々な伝統工芸の中から、何故深田木工所を選んだのか?そのシンプルな理由は、こういった行政やそれに準ずる団体の支援メニューに「木魚」の製造事業者が手を挙げた現場に初めて出会ったからです。木魚の製造事業者が新しい事に挑戦したいというその気持ちに何とか応えてみたいという思いと、親戚がお寺である為、幼少期より「木魚」は身近に感じられる存在で、叩かせてもらった時の気持ちを覚えていた事もあるかもしれません。

初めて商品企画の為に深田木工所を訪れた際には、3代目の深田仲司さんに木魚の作り方や種類、どのような理屈で音が鳴るのかを教えて頂き、どうして新しい商品を開発したいのかをじっくりお伺いしました。そこで初めて木魚の輸入品が大量に日本に入ってきていること、国産の木魚製造事業者が非常に少なくなってきている事を知りました。この現状を何とかしたい、その為に新しいチャレンジが必要だという深田さんの熱が伝わり、私も思いをしっかり受け止めて形にしたいという気持ちが強くなりました。

思いを形にする為に、要件を整理

深田さんの思いは、国産の木魚製造をしっかり未来に繋ぐこと。その為には次世代の担い手を招き入れる為に魅力的なものづくりを続けること、担い手の木魚製造の修練にも繋がり、販売して収益をもたらす新たな商品を開発すること、そしてその商品は深田木工所の技術をしっかり伝えることが出来るものであることと私は理解しました。それを開発のコンセプトを起こす為に要素分解し、

「製造者側のポイント」

  • 仏具ではない販路構築ができる商品
  • 木魚の製造工程から外れ過ぎない加工工程
  • 収益性を高める為に外注比率は極力下げる

「市場側のポイント」

  • 木魚らしさを感じられるが仏具ではない
  • 音が出せることを機能価値とする
  • 現代の生活空間に馴染むオブジェ的要素を持たせる

をまず抽出しました。そこから導き出されたコンセプトは、「誰もが一度は聞いたことのある木魚の音を、日常の暮らしの中のでも気軽に取り入れられる、叩いて楽しい打楽器」です。デザイナーにはmotonorixを起用し、コンセプトワークの段階から共同して企画をブラッシュアップして頂きました。非常に若いデザイナーですが、伝統工芸のような世界こそ、固定観念に捉われない次世代の新しい感性が必要ですし、未来を担う世代のデザイナーに、伝統工芸産業が抱える課題をリアルに知って欲しいと思い、一緒に開発を進めていきました。

商品開発の中での工夫点

モクギョの商品開発は比較的順調に進んだと言えますが、一つターニングポイントとなったのはミュージシャンにプロトタイプに触れてもらいながらヒアリングを行ったことでした。開発商品の単価を考えた際に、比較的高価な販売価格になることが見えており、本格的な楽器としての方向性に進むのが良いかどうかを判断する為に、演奏者の意見をヒアリングを致しました。結果的に、ライブなどでの演奏を考えた際にはより本格的なパーカッション楽器が既にあり、メロディを自在に奏でるには少々不自由で、ステージ楽器としての演奏性や出せる音量を考慮すると市場性が低くなりことがわかりました。

そこからはレクレーション楽器としてより機能要件を絞り、一部の機能を省いたシンプルなデザインへ修正を図り、老若男女が持って演奏し易いサイズに調整をしていきました。音の鳴り方に関しては、深田さんがしっかりこだわりを持ってベストポイントを探す試行錯誤を続けてくださり、見た目のイメージ通りのポクポク音を出せるようになりました。

木魚を叩くバチはバイというのですが、今回のモクギョに関しては特注サイズのバイを職人さんに作って頂いております。特注ではありますが、材料や基本形状はお寺で使う木魚と同じものをセットしています。

深田木工所のモクギョの魅力

一年に満たない短い開発期間でありましたが、結果的に深田木工所でしか作れないユニークな楽器が仕上がりました。モクギョでも仏具として使用される木魚同様に無垢の楠をカットし、音を出す空洞部分は長鑿と言われる専用の道具で掘られています。この掘り加減が音を決める為、良い音を出す為には非常に繊細な調整と技が求められます。代々にわたって培われた木魚の製造技術があって初めて出せるポクポク音なのです。片手で握れるモクギョのイメージ通り、少し可愛らしい高音が特徴です。また、口の部分を手で押さえることで音階をある程度コントロール出来ます。そのうち凄いモクギョ奏者が誕生するかも?!

開発当事者としてピュアに感じるモクギョの魅力ですが、

  • 楠の香りがとても心地よい
  • 絶妙に手に馴染む握り具合
  • ただ叩いているだけでストレスが不思議と解消される
  • 木だけで出来ているので、自然の中で叩きたくなる(個人差ありw)
  • 好きな音楽に合わせて踊りながら叩くと実はかなり楽しい

と言った、狙ったこと以外にも結構なセールスポイントが宿ることとなりました。先の2月に東武百貨店さんでイベント販売した際にも大変好評で、我々の想像以上に売れて関係者一同驚きと共に喜ぶ事が出来たのは、新商品開発&販売の醍醐味と言えましょう。深田木工所にお弟子さんが来るまではもう少し時間がかかるかも知れませんが、この乗りかかった船を深田さんと一緒に漕いでいきたいと思っています。

モクギョがもたらすハッピーな未来

モクギョが注目され売れていくことで、国産木魚製造事業者の課題、仏具業界が抱える課題をより多くの人達に知って頂く効果を生み出します。また木魚の製造技術を少しでも伝えていくことで、技術を別の形で活かすアイデアを持つ人と出会う可能性も高まります。木魚製造が魅力的な職業である、と若い世代が実感する機会が増えれば、ものづくりのセンスや能力を発揮する職業が一つ守れるかも知れません。あなたが楽しく叩くポクポクは、未来の誰かのハッピーに繋がるポクポクなのです。

ポクポク♪是非皆さんも手に取って未来の誰かのハッピーも呼び寄せる音を鳴らしてみてください。

※久我山のSupermama mit tobuhiでも深田木工所のモクギョを販売しております。


企業情報:

深田木工所

motonorix

参考リンク:

ものづくりフロンティア

一般社団法人伝統的工芸品産業振興協会

伝産協会のプレスリリース

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